ああ、小菅村でのんびり暮らそう

集落に移住して、古民家ホテルを運営する夫婦の話

【後編】アイアンマンケアンズ 〜諦めない、ゴールで待つ妻に会うまでは〜

いよいよ、ケアンズ後編!

 

 

▽前編はこちらから

www.shunya-hitomi.com

 

 

荒波のスイムパート

前日に知り合ったニュージーランド人のベテラントライアスリートから、こんなアドバイスをいただいていた。

 

「いいかシュン、アイアンマンが初めてなら、スイムは後方からスタートするといい。ひとつは、バトルに巻き込まれないこと。もうひとつは、他の選手たちのスタートを見るのもアイアンマンの楽しみ方のひとつだからね。あれは感動する光景だよ。」

 

このアドバイスの通り、スイムはかなり後方からスタートした。自分の泳力なら、おそらく真ん中が妥当なところだが、今回はこの作戦が大当たり。

まず、緊張して心拍数が上がってしまっていたので、落ち着かせる時間が欲しかった。そして、後方からスタートして多くの選手を抜くのは単純に気持ちよかった。良くも悪くも「調子がいい」と思い込むことができた。

実際、肩はよく回るし、呼吸も乱れない。疲労もほとんど感じなかった。

 

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向かい風の往路を終え、いよいよ追い風の復路だ。スピードあげるぞと意気込んだものの、波は決して進行方向に流れてはいない。

感覚的には、小刻みに左右に流れているイメージ。よって、真っ直ぐ泳いだつもりが気がつくとコースアウトする、この繰り返し。

 

スイムアップ後、手元の時計をみると1時間20分が経過していた。

 

調子がいい割にタイムは普通だったが、楽しく泳げたのでよしとする。

 

 

目標 01:20:00

結果 01:19:54

 

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腰痛と強風のバイクパート

アイアンマンレースにおいて、もっともタイムに影響するのがこのバイク。目標としては30km/hで180kmを完遂したかったが、そう甘くはなかった。

 

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最初の30km地点までは嘘のようにペースがあがる。サイコンをみるとアベレージ33km/hと表示されているではないか…!!

 

「序盤は飛ばしすぎないように」というアドバイスを師匠からいただいていたのだが、無理だ。気持ちよすぎる、飛ばしてしまおう。

 

すると

 

30km地点を過ぎたあたりから腰に違和感を感じる。徐々に違和感は痛みに変わる。

過去に効果のあった「腰と会話する」を試みるも、今回は反応がない。

「どうしたんだい?」

「そうか、このポジションならどうだ?」

 

 

 

…だめだ、完全に無視である。

 

練習は本番のように、本番は練習のように。やはりこの言葉は真実だったのだ。

 

そこから先はよく覚えていない。

 

身体を直立姿勢にし、強風の影響を真正面から受けながら果敢に挑んでいる選手がいたとしたら、わたしだ。

 

アベレージペースはすでに30kmを切っている。

痛い、痛いとつぶやきながら、残りの150kmを少しずつ、だが確実に進んでいく。

 

余談だが、180kmという距離はブリスベンからバイロンベイまでの距離だ。日本なら東京から静岡くらいだろうか。

それを、腰痛を抱えたままこぎ続けるというのは、言葉以上に辛いものがある。

 

少し、本当に少しだが「諦めたい」と思うこともあった。

 

けれど、そんな選択肢は当然ない。

 

例え脚が攣ろうが、タイヤがパンクしようが、はなから完走以外は眼中にない。

なぜなら、妻がゴールで待っているから…!!

 

150kmを過ぎたくらいからだろうか。だんだんと腰痛がおさまってきたので、再びDHポジションで速度をあげる。

 

ゴールに近づくにつれて、歓声が湧き上がる。バイクフィニッシュした時の安堵感といったら、それはもうすごかった。

これから42.195km走らなければいけないというのに…

 

目標 06:00:00

結果 06:39:27

 

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お腹ごろごろランニングパート

いよいよ最後の種目、ランニング。走り出すとひとみがいるではないか。

 

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バイクで随分と待たせてしまって申し訳ない気持ちと、それを上回るほどの大好きな人に会えた嬉しさで、体力は全回復。ひとみからの第一声はこうだ。

 

 

「しゅんやー!みんなしゅんやのレース心配してくれてるけど、誰も期待なんかしてないからー!」

 

 

 

ん?

 

 

空耳だろうか。

 

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「誰も期待してないからー!」

 

スイム3.8kmとバイク180kmを終え、すでに8時間が経過している。そして、これからフルマラソンを走ろうというところで「誰も期待なんかしていない」とは。励ましなのか、それともバイクが時間かかりすぎて気分を害したのか。

 

いや、きっとこう言いたかったんだ。

 

「人のことは気にせずに、自分のレースに集中していいんだよ」と。

 

 

 

ひとみの叱咤激励を前向きに捉え、自分のペースを淡々ときざむ。

 

今年のケアンズは14kmのコースを3周回だ。普段は周回コースは嫌いだけど、アイアンマンとなれば話は別。応援が密集したコースを走り続けられるのは、応援好きの自分としてはたまらない。

 

最初の一周はキロ6分で走りきる。うん、悪くない、お腹の調子以外は。

 

どうもトライスーツが濡れてしまったのか、お腹のあたりが冷やされて胃の調子が悪い。ここで、レース直前に用意しておいたあるアイテムが役に立つことに。

 

ででーん

 

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https://goodsshops.exblog.jp/16895423/

 

断熱アルミシートである。

DAISOに行けば必ず売っている。これを切りとり、バイクのサドル下と、ランのトランジションエリアに置いておいたのだ。

これをお腹にかぶせると、どうだろう。

防風機能があり、保温効果もある。

少し邪魔だけど、お腹がゴロゴロしたまま走るよりははるかにマシだ。

 

食べ続けながら運動するトライアスロンにおいて、胃腸が弱ると致命的だ。このアルミシートは大きな収穫だった。

 

 

そんなこんなで、二周目はキロ8〜9分ペース

 

さすがにもう、脚が上がらない。

しかし、周回コースなのでゴール地点あたりを通るたびにひとみに会える。それだけを楽しみに、何とか前に進む。

 

そしていよいよ最終ラップ。

 

 

実は、レース前にひとみがサプライズでビデオレターを用意してくれていた。

大好きな人たちから、心のこもったメッセージを受け取り、素直に感動した。

レースに向けて、食事管理やマッサージをしてくれて、せっかくのデートの日でも練習を優先することもあり、ひとみにとっても大変な2ヶ月だったに違いない。

 

なのに、ビデオレターまでつくってくれるというのは、感動を通り越して尊敬というか、もう神さまだ。

 

 

そのビデオレターの中に、こんなメッセージがあった。

 

「Shun, Run really fast from the last 7km.」

 

最後の7kmを、かっ飛ばせ。

 

最後の14kmはかなりタフだったが、頭の中ではずっとこのことだけを考えて走っていた。

 

「最後の7kmは絶対に飛ばしてやる」

 

スポーツにおいて、意識や意地は大切な要素で、強く念じることで本当に実現できたりするものだ。

 

いよいよ迎えた35km地点。

 

ずっと我慢してきたコーラを口にする。

一時的なものだが、身体が軽くなる。

(コーラはつまり、砂糖とカフェインなので、一時的に集中力が増したり、身体が軽く感じたりする。これは血糖値が急上昇するからだが、その後は急落するので一気に疲労や眠気を感じる。序盤は飲まない方がいい。自分は今回、最後の7kmから解放した。)

 

2km地点ごとのエイドステーションでコーラを補給し、キロ5分30秒ペースを目標に飛ばす。みんな疲れ切っているから、どんどん抜いていく、気持ちいい。

 

最後はニュージーランド人と中国人とランデブーするも振り切り、いよいよフィニッシュラインへ。

 

ドキドキ

 

たった数十メートルのレッドカーペットの上を、大声援の中、駆け巡る。

 

ゴールにはひとみがメダルをもって待っている。

 

13時間も待たせてしまった。

 

最後は、濃密な数十メートルだった。

想像できるだろうか?

愛する妻と抱き合うために、たったそれだけのために13時間も走り続けたのだ。

 

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空腹で食べるご飯が、どんな高級食材より美味しいように。

 

衰弱しきった身体に、笑顔で待つひとみ。

 

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「ゴールする時、どんな気持ちだった?」と何度も聞かれたけど、ふさわしい言葉がみつからない。

 

色んな感情が混じるが、何というか、とてつもない幸福感に包まれてフワフワしている感じ。

 

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無事に、オーストラリア最後の大勝負を達成することができた。

 

目標 05:00:00

結果 04:45:34

 

ゴール目標 13:00:00

総合リザルト 13:00:24

 

レース後

課題もたくさん見えたけど、それ以上の満足感で満たされた。そして、ここにくるまでの道のりは決して一人では乗り越えられなかった。

 

あえて個人名を出すと、ボディケアと3種目の技術的アドバイス、そして恩師を紹介してくれた石さんご夫妻。ここから全てが始まりました。

 

共に練習をしてきたUQトライアスロンチームのみんな。みんな本当に速かった。

 

トレーニングスケジュールから練習方法から、何から何まで教えてくれた恩師のたかしさん&ジョーご夫妻。二人のおかげでトライアスロンをもっと好きになりました。

 

Facebookでずっと応援してくれた仁さん&美智さんご夫妻。帰国したら、早く会いたいです。

 

ビデオメッセージをくれた皆さん。

お兄ちゃんのような存在の石井さん。また一緒にトレーニングしたいです。

 

大好きなカップルのユキちゃんとディアス。エネルギーいただきました。

 

大親友のいずとクンクン。次はいつ会おうかね。

 

短い間だけど一緒に住んで、たくさんの思い出をつくったなおとさん、なつさんカップル。これからの活躍が楽しみです。

 

誰よりも長く、律儀なメッセージがとてもひろきさんらしかった。早く飲みたいね。

 

シェアメイトのりさちゃんとまきくん。ちはるさんと冨永さんを紹介してくれたのもりさちゃん、人を繋げる才能があると思う。

 

ライバルであり大先輩のキッシー。遠くにいながらも、いつも刺激と安らぎを与えてくれます。

 

いつも影ながら応援してくれる秦野マネージャー。一緒にまたランニングしたいですね。

 

人生の道しるべを与えてくれた、弘太郎大先生。トライアスロンを初めたきっかけも、この方だった。

 

愛してやまない、須郷さんご夫妻。第二の両親のように慕っています。

 

谷口家のみんな、いつかレースを見せてあげたいな〜。

 

 

 

そして、ひとみ。

 

 

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感謝してもしきれない。

もともと大好きだけど、普段やらない経験だからこそ、お互いのことをもっと分かり合えた思う。

何度もいうけど、これは二人で勝ち取ったゴール。

こんな経験は人生でなかなかできるものではないし、完走そのものより、トライアスロンを通して大好きな人たちと関われたこと、新しい仲間ができたこと、何かひとつのことに挑戦する喜びを思い出したこと、夫婦での想い出ができたこと、それらの価値の方が大きいと思う。

 

スポーツって素晴らしい。

夫婦って美しい。

少しでもこの気持ちをシェアできていたら嬉しいです。

 

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以下、備忘録(読まなくてよい)

 

【スイム】

・荒波でブイが見えず、何度かコースアウトしてしまった

→色や個数も事前に把握しておく。速そうな人についていく


・ゴーグルの曇り止めを海で洗ったらジャリジャリになった

→手持ちの綺麗な水で洗おう


【バイク】

・最初からDHポジションで飛ばしすぎて30km地点で腰に違和感。50km地点で腰に激痛が走り、左脚が痺れてきて、その後の130kmは地獄でしかなかった

→腰が完治するまでDHポジションは封印。次にバイク買う時はレース用ではなくオールラウンドなモデルを選ぶ。ヒルクライムやロングライドでロードバイクの技術向上を図る。TTバイクは10年早い、買っても使いこなせない。TTポジションはローラー台を買ってその上で練習する。本格的な体感トレーニングを日常トレーニングに取り入れる


ケイデンスをぶっつけ本番で導入

→80回転を意識したが、感触的にはレースペースを維持しやすかった。今後はもっとケイデンスを使いこなし、いずれはパワーメーターも導入する


・おにぎりが受け付けなかった

→レース中に米は合わないかも。その他のドライバナナ3本、ピーナッツハニーサンド4個、オレンジハイドロジェルは飲みやすかった


・特製はちみつドリンクが失敗だった

→ジェルが濃いので、普通の水が良かった。途中で捨ててエイドの水ボトルを活用。そっちの方が良かった


・鼻水がとまらない

→これはもうどうしようもない?


・どれだけ食べて、飲んだらいいのか目安が分からなかった

→お腹がゆるくなりやすいので、ドリンクを抑えてたくさん食べた。果たして補給が上手くいったのか不明


・180kmが果てしなく長く感じた、おしりも痛かった

→いっそ、ビブショーツをスイムの時から着てた方がロングは快適かも。ランも上着を着替えて走れるし。トライしてみる


【ラン】

・いきなりお腹が冷えてやばかった。その後、ずっと胃腸がゆるい感じだった

→アルミシートを引いて対策、何とかもってくれたけど、気になって仕方ないので次回はラン用に上着に着替えることを推奨。もしくは補給の問題か


・バイク後、ひざの痛みあり

→すぐに引いたから良かったものの、バイクの乗り方をチェックする必要あり


・14kmから失速、21km以降は脚がパンパンで上がらなかった

→ブリックランの練習量を増やす必要あり、20km以上とか。クッションがあって転がる靴をロングでは使用してみたい。カーフコンプレッションを導入する


・ゼッケンベルトにジェルをつけるのがスマートではない

→フラスコ2個付きのベルトを買う(ちなみにジェルは出来ればバイクのものとは味を変えたい)


・ドリンクを飲むとすぐにお腹に溜まってゴロゴロする

→その理由で補給にすごく気を使ったので、原因を追求する必要あり

 

トランジション

コナを狙わない限り、そこまで焦る必要はない。それよりもレースを快適に走るための服装を用意し、ちゃんと着替えることが優先 ex)ビブショーツ、エアロバイクジャージ、ランニングトップなど

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